ブランドアイデンティティとは、企業側が「顧客にこう見られたい」という意識の総体で、消費者が企業に対して持つ「ブランドイメージ」とは対照的な概念といえます。製品・組織・人・シンボルを通したブランド戦略の立案に大きく関わり、ブレのない施策を実施するための指針にもなります。このブランドアイデンティティと、消費者の心の中に育つブランドイメージが合致すればするほど、正しいマーケティングプログラムが実行できているといえるでしょう。
ブランドアイデンティティとは、ブランド戦略の骨子となる重要な概念です。
ブランド戦略の方向性を規定するための必要不可欠な要素といえます。
この記事ではブランドアイデンティティのメリット、作り方、導入事例を紹介します。
ブランドアイデンティティとは、企業側が「顧客にこう見られたい」という意識の総体で、消費者が企業に対して持つ「ブランドイメージ」とは対照的な概念といえます。製品・組織・人・シンボルを通したブランド戦略の立案に大きく関わり、ブレのない施策を実施するための指針にもなります。このブランドアイデンティティと、消費者の心の中に育つブランドイメージが合致すればするほど、正しいマーケティングプログラムが実行できているといえるでしょう。
「ブランドコンセプト」と何が違うの?と思われるかもしれませんが、人間に例えるとわかりやすい位置関係かもしれません。
「ブランドコンセプト」は、その人が生きるうえで成し遂げたいこと。
「ブランドアイデンティティ」はその人の性格や、社会からどう認められるかという関わり方
この両輪で、ブランドの根本が構成されると言えるでしょう。
意外と見落としがちですが、ブランドアイデンティティは社外だけでなく社内にも影響を与えます。以下では、ブランドアイデンティティを明確にすることで得られる3つのメリットや重要性を紹介します。
ブランドアイデンティティを明確にする最大のメリットは、ブランド戦略に一貫性を持たせられる点です。「らしさ」の芯が通っていれば、長期的にブレのないブランド戦略を立てられますし、さまざまなタッチポイントでブランドの立ち振る舞いを設定することができます。逆にいうとこれが無ければ、行き当たりばったりのコミュニケーション施策をやることになってしまいます。
企業側が「消費者からどう見られたいか」という姿を設定することで、魅力が正しく伝わります。企業が発信するブランドの方針が一貫していると、顧客もブランドの特徴を捉えやすいですよね。その際、競合との違いが出るよう適切にブランドアイデンティティを設計すれば、差別化にもつながり、より選んでもらえる可能性は高くなるでしょう。
ブランドアイデンティティは社内でも共通認識として浸透させることで、インナーブランディングにもいい影響を与えます。社員間で一貫したイメージを共有し、マネジメントから現場まで同じ方向性で動くことができます。社員が同じブランドアイデンティティを共有していると、例えば接客を担当する従業員が話す内容にも一貫性が生まれブランドイメージがより強固に、スピーディに浸透していくことになります。
ブランドアイデンティティの構築には、構成要素の把握やフレームワークの活用など様々な手順があります。手順を理解して実行することで、簡潔で漏れなく作成することができると思いますので、是非参考にしてみてください。
ブランドアイデンティティの構成要素の定義はさまざまですが、ここでは以下の主な4要素を紹介します。
それぞれについて次に解説します。
①フィロソフィー
フィロソフィーは、企業経営においては「経営哲学」や「経営理念」を指す言葉です。
ブランドアイデンティティにおいてはブランドの理念といえます。
フィロソフィーはミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の3つに分けて定義可能で、それぞれを簡単に表現すると次のように言い表せます。
ミッション(Mission) | 存在意義・使命 |
ビジョン(Vision) | 将来像・方向性 |
バリュー(Value) | 価値観・行動指針 |
②ベネフィット
ベネフィットは、顧客が企業から受け取る有形無形の利益のことで、次の3種類に分けて定義されます。
機能的ベネフィット | 性能や便利さを実感できる |
情緒的(心理的)ベネフィット | 楽しい・面白い・心地よいなどのポジティブな感情が持てる |
自己表現(ステータス)的ベネフィット | ブランドを使用・利用することで自分をよく見せられる |
③属性
属性とは、ベネフィットを感じさせる具体的な理由で、客観的に把握できる数値や特性などを指します。
たとえば「地球に優しい」理由として説明される「リサイクル素材でできている」「環境負荷が少ない」のような特性と、それらを具体的に証明する数値を「属性」といいます。
ブランドアイデンティティは、価値を裏付ける事実があることが顧客を納得させ、信頼感を与えることになるのです。
④パーソナリティ
パーソナリティは、ブランドの個性や差別化できる要素に対して、人格的な特徴を持たせたものです。
たとえば「親しみやすい」「積極的だ」「信頼できる」「頼りになる」などの感情として表される特徴があること。
無機質な「モノ」や「コト」ではなく、人間的な愛着を持って受け入れられることが、ブランドアイデンティティには必要です。
「このようなブランドだと思われたい」は「このような人間だと思われたい」と同じだと考えると分かりやすいでしょう。
次にブランドアイデンティティを策定する手順として、フレームワークの参考をご紹介します。
ブランド・アイデンティティ・プリズムは、ブランドアイデンティティの構築に役立つ要素を六角形のプリズムに見立てて書き出したもので、以下の6つが該当する要素です。
言葉だけではなかなか分かりにくいですが、ブランドも人間と同じで、さまざまな要素によって魅力が形成されています。その一つ一つを緻密に設計して、社会から必要とされるブランドを作り出すことが重要と言えるでしょう。
米国の経営学者でコンサルタントのDavid Allen Aaker(D.A.アーカー)は「ブランドの父」と呼ばれ、電通顧問を勤めていた時期もありました。
彼は消費者の持つブランド認識の視点から、ブランドアイデンティティが4つの側面を持つという「ブランド・アイデンティティ・システム(アーカーモデル)」を提唱しています。
それぞれについて次に解説します。
自社のブランドアイデンティティにどのような視点があるかを考えることは、明確なブランド認識につながるでしょう。
①製品としてのブランド
ブランド・アイデンティティ・システムにおいて、製品としてブランドが認識される際には次のような視点があるとされています。
たとえば「日用雑貨である(分野)」「希少な天然素材を使用している(品質・価値)」「皇室御用達である(ユーザー)」「日本製である(原産国)」という視点です。
製品を使用するベネフィットは機能だけでなく、情緒的なベネフィットや自己表現の対象としても捉えられる可能性があります。
ブランド・アイデンティティ・システムにおいて、組織としてブランドが認識される際には次のような視点があるとされています。
組織属性の例としては「従業員の自発的行動に任せる文化」というスターバックスのようなアイデンティティがあります。
組織の視野としては「地域に根ざしたサービス(ローカル)」「世界10か国でサービスを展開(グローバル)」というような視点もあるでしょう。
③人としてのブランド
ブランド・アイデンティティ・システムにおいて、人としてブランドが認識される際には次のような視点があるとされています。
パーソナリティとは「誠実」「エネルギッシュ」「無骨な」という人格的なもの。
ブランドと顧客の関係は「友人」「助言者」という立場・役割のようなものであるといえます。
前述のようにブランドを自己表現の対象として捉える場合、ブランドのパーソナリティにユーザー自身のパーソナリティを重ねていると考えることもできるでしょう。
④シンボルとしてのブランド
ブランド・アイデンティティ・システムにおいて、シンボルとしてブランドが認識される際には次のような視点があるとされています。
メタファー(metaphor)とは「隠喩(いんゆ)」「暗喩(あんゆ)」のことで、対象を直接表現せず別の表現を用いて暗示的に表現することです。
すなわちブランドそのものを認識するのではなく、ビジュアルやメタファー、ブランドが持つ伝統の視点からブランドを認識して評価しているという側面です。
ブランドアイデンティティを表現するには、いくつかの手段があります。
一般的に視覚的な表現方法が採られ、総じてビジュアルアイデンティティ(VI)と呼ばれているものです。
①商標・ロゴ
ブランド名は商標であり、具体的に言葉として認識できる名称です。
また、ブランドを象徴するグラフィックがロゴで、他社とは明確に異なる独自性を示すものといえます。
ロゴは製品を始め、パッケージやWebサイトなど、さまざまな場所に配置してデザインの一部となり、ブランドアイデンティティを表現する構成要素です。
②言葉・フレーズ
商標名以外にもブランドを端的に表現する言葉やフレーズがあります。
スローガン(ブランドスローガン)やタグラインと呼ばれるもので、タグラインはロゴのそばに書く短い言葉です。
ブランドの理念を分かりやすく一言で伝える役割があり、ブランドの印象を強めて世界観を想像させるフレーズです。
③カラー
カラーは視覚的な印象を決める重要なもので、見る者に瞬時に一定のイメージを与えます。
たとえばオレンジ色や赤色を見ると暖かい印象を持つ、紺色を見ると誠実な印象を受ける、というようなことです。
ロゴに使用されるカラーはブランドイメージに直結します。
ほかにもWebサイトやパッケージなどのブランドに触れる接点(タッチポイント)で、カラーは重要な役割を持つのです。
④グラフィック
広い意味でのグラフィックとして、
などのビジュアル要素があります。
商標・ロゴとともに示されるタグラインのフォント、Webサイトのキービジュアルに使用される写真やイラストなど、ブランドイメージを具体的に意識させるデザイン要素として、グラフィックは重要です。
前述の表現手段であるビジュアルアイデンティティの対象となる媒体には、次のようなものがあります。
すべて、ユーザーや消費者との接点(タッチポイント)となるものです。
①Webサイト・アプリ
Webサイトやアプリは、一般消費者にも広くアイデンティティをアピールできる媒体です。
アプリの操作性(UI)もブランドの印象に影響を与えるとともに、アプリを利用する一連のユーザー体験(UX)もブランドイメージになり得ます。
そのほか、Instagramで配信される制作物やキャンペーンのコンテンツなども、ブランドアイデンティティを表現する場となります。
②商品・パッケージ・店舗
商品にもブランドアイデンティティは感じられます。こだわって作られた商品にはアイデンティティが詰まっているといえるでしょう。
パッケージはさらにユーザーにワクワク感を起こさせる媒体として機能します。
店舗空間にもブランドアイデンティティを表現できます。アップルストアやスターバックスの店舗には、象徴的なロゴを配したファサードやインテリアのビジュアルがあるのです。
③販促物
販促物は、ユーザーの身近なところに存在できる媒体です。
展示会やイベントなどで準備される次のような印刷物やアイテムも、それぞれがユーザーにブランドアイデンティティを感じさせる媒体となり得ます。
これらの媒体で一貫してビジュアルアイデンティティを表現すれば、ブランドのアイデンティティは強くユーザーに認識されるでしょう。
強固なブランドアイデンティティを策定するうえで、他社の事例分析は非常に有益です。以下では、ブランドアイデンティティの構築に関する事例を3つ紹介します。
スターバックスのブランドアイデンティティは自宅や職場に次ぐサードプレイスです。この考えに沿って、ソファの設置やWi-Fiの提供など、チェーン店でありながらくつろげる空間を提供しています。カフェに欠かせない接客へのこだわりもブランドアイデンティティに沿って策定されており、スタッフとお客さんとのコミュニケーションも店内の快適さにつながるという細かな「らしさ」の設定がなされています。
スティーブ・ジョブズが音声出演したCMである”Think Different”は、Appleのブランドアイデンティティを秀逸に表しています。このCMは製品や企業の説明ではなく、「世界を変えるためには異質なアイデアが重要」というメッセージを伝える内容でした。独自性やシンプルでスマートなデザイン性を印象付けるブランディングに成功しています。
ユニクロのブランド戦略は、世界中のどんな人でも心地よく着れる服をブランドアイデンティティとする「MADE FOR ALL / LIFE WEAR」です。海外展開や高品質な製品の提供を象徴するブランドアイデンティティといえます。ヒートテックに代表される高品質で機能性に優れた製品から、こうしたブランドアイデンティティが率直に伝わってきますよね。
ナイキのブランドアイデンティティ「Just Do It」は「とにかくやろう」です。
言葉が登場したのは1988年に放映されたCMです。高齢者がナイキのシューズを履いて毎朝、長距離のジョギングをする映像のなかに登場しました。
以降、アスリートやアスリートを目指す人々を起用したCMでこの言葉を見せることで、チャレンジすることの素晴らしさを訴えました。それとともに、ナイキが先進的・行動的でアスリートを支援するブランドであることを市場に浸透させています。
無印良品の「これでいい」というブランドアイデンティティは、シンプルでナチュラルなビジュアルにも表現されています。見た目のインパクトや流行に走らず品質や体験の心地よさを重視する同ブランド「らしさ」を表現しています。
商品を売ろうとする人は目立つことをしますが、強く主張する商品が好きではない消費者も当然、存在するわけです。
商品・サービスを普及させるために顧客との出会いは必要ですが、その体験としてはさまざまな視点があり、同ブランドは目立たない視点をあえて選んだのでしょう。
モスバーガーは競合にマクドナルドがありますが、まったく異なる価値観を持っています。その根幹にあるものが「おいしさ」へのこだわり。
安く・早く食べたいというニーズには応えず「おいしさ」を重視し、客を多少待たせてでも「できたて」を提供する姿勢を貫いています。
MOSは
の頭文字を取った名前です。
雄大な自然のようにありたいという創業者の願いが込められ、食材や生産地域へのこだわりにもつながっています。
東京ディズニーランドは従来、日本にあった遊園地とは異質の空間を提供しました。
ジェットコースターや観覧車という定番の設備を揃えるのではなく、来場者が日常生活を離れ、ディズニーの物語の世界に入り込める場を提供したのです。
それが「夢と魔法の国」というブランドアイデンティティです。
アトラクションやイベントだけでなく、来場者をもてなすスタッフの行動指針を徹底させることで顧客体験を向上させました。
このような「インナーブランディング」も東京ディズニーランドが成功している要因といえるでしょう。
リゾートトラストは「ベイコートクラブ」「エクシブ」などの会員権事業を中心に、ホテル・レストラン・ゴルフ場などを経営する企業グループです。
2021年にグループ共通のブランドアイデンティティ「ご一緒します、いい人生」を宣言し、顧客の豊かでよりよい人生に寄り添う姿勢を明確にしました。
コロナ禍において会員制事業の強みを認識した同社は、IT技術の導入によるスマートチェックインなどのサービス向上に努め、余暇や健康を求めるユーザーの期待にグループをあげて応える方針を打ち出しています。
今回は、ブランドアイデンティティの役割や考え方、事例を紹介しました。
ライデンではクライアントのブランドアイデンティティを明確にし、さまざまなタッチポイントのクリエイティブに活かすことで企業の課題解決をサポートしています。
ブランド戦略の支援からWebサイトやグラフィック広告の制作まで、一貫してサポートしていますので是非お問い合わせください。
「エンドユーザーとのエンゲージメントを⾼めたい」「コミュニケーションに⼀貫性を持たせたい」、
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